家事ノート

日本にも数百万人? モノを手放せない「ためこみ症」の原因・治療法・周囲の接し方

投稿日:2019-08-21 更新日:

日本には「ためこみ症」といわれる精神疾患を抱える人が数百万いるとされ、周囲に助けを求められない家族もいます。

「ためこみ症」とは、どのような疾患か

テレビなどで報道される「ごみ屋敷」。その全てに当てはまるわけではありませんが、当事者の中には、「ためこみ症」という精神疾患の人が含まれているそうです。どのような病気なのでしょうか。臨床心理学の分野で「ためこみ症」の研究に携わる、上越教育大学大学院臨床心理学コース教授の五十嵐透子さんに聞きました。

モノを手放したり処分したりすることが難しい状態

Q.「ためこみ症」とはどのような病気ですか。

五十嵐さん「価値や実用性に関係なく、モノを手放したり処分したりすることが難しくなっている状態です。家の生活空間が本来目的としたように使えず、そこで生活を送っている人(たち)が生活しにくくなります。具体的には、浴室が体や髪を洗う場所として使えないほどモノであふれる、台所が料理を作る場として使えないほどモノであふれる、などです。

モノを手に入れても自宅内に持ち込むことがなければ、家の中がモノであふれることはありません。モノを入手して自宅内に持ち込んでも“整理整頓”されていれば、生活スペースに支障はきたさないでしょう。『モノの入手』『保管・保存し続ける』『整理ができていない』『処分しない』という4つの状態が“クラッター(乱雑な状態)”につながります」

Q.病気に対する日本での認知度は。

五十嵐さん「『ためこみ症』は、以前から強迫症の一症状として認知されてきましたが、強迫症の人全てにみられないこと、強迫症ではない人でもみられることから、1990年代から研究が進められ、2013年の米国精神医学会の診断基準に初めて単独の精神疾患として位置づけられました。病気として確立したのが最近のことでもあり、専門家間の認知度は高くはありませんが、少しずつ広がっています」

Q. 何が原因で発症するのですか。

五十嵐さん「神経伝達物質という、脳の細胞間で情報を伝える際に機能している『セロトニン』『ドーパミン』などのバランスの崩れや、脳の特定部位の機能が異常な動き方をする、などの原因が考えられていますが、はっきりと確定しているわけではありません。当人にとって非常につらい経験をしたことが引き金になって発症する場合もあります。20歳以下で44~70%が発症していて、発症の平均は12歳ごろというデータもあります」

Q.日本で「ためこみ症」とみられる人は、どれくらいいるのでしょうか。

五十嵐さん「海外のデータでは、人口の2~6%存在するとされており、これを日本の人口に当てはめると240万~720万人で、かなりの数と推測されます。日常生活を送りにくくなっている状態も個人差があります。また、どれだけ大量の所有物があっても、『ためこみ症』の人の中には、その病気だと自覚していない人もたくさんいます」

Q.報道で「ごみ屋敷」の問題が取り上げられます。この当事者は、「ためこみ症」といえるのでしょうか。

五十嵐さん「ごみ屋敷にしてしまった本人全てを、『ためこみ症』とは断定できません。さまざまな個人的要因や環境的要因が複合的に関わって発症し、症状のレベルもつかみにくいため、状態の確認だけでなく、本人たちと話さないと診断できないからです。人の行動には、その人なりに何らかの理由や目的があります。それらを理解しないで『ごみ屋敷イコールためこみ症』と決めつけることはあってはなりません」

Q.「もったいない」という意識でなかなかモノを捨てられない人もいます。このような人も「ためこみ症」といえるのでしょうか。

五十嵐さん「『もったいない』という意識を持つこと、イコール『ためこみ症』ではありません。両者は、保存の目的とその量、実際に目的としたことに使用したのか、生活の支障の状態などで異なります。

米国での調査によると、価値のないモノを処分することの困難さを体験している人は5人に1人いることも報告されています。また、日本では、『もったいない精神』が強く、モノを数年使わずに置いたままという人もいます。しかし、モノを置いておくことで生活に支障があるわけではなく、この人たちは『ためこみ症』ではありません」

Q.多くの捨て犬や捨て猫を拾って自宅で飼い、ふん尿の臭いで周囲に迷惑をかけている人についての報道も見かけます。この人たちも「ためこみ症」なのでしょうか。

五十嵐さん「全ての人がそうとは断定できませんが、『動物ためこみ症』という状態があります。これは『ためこみ症』の一種で、対象がモノではなく“動物”になっています。ためこむ動物は猫が多いです。日本でどれくらいの人が『動物ためこみ症』なのか、全体像は分かっていません。

動物にとって、栄養や保護が十分でなく、使用できるスペースに多くの動物が飼われ、そこで生活を送る人も周囲も、生活環境、特に衛生状態の問題に直面します。しかし、これらの状態にあることを否定する人が多いと思います」

Q.動物以外の「ためこみ症」もあるのでしょうか。

「『デジタルためこみ症(digital hoarding)』という状態も指摘されています。コンピューター内に古い書類やソフトウエア、アプリケーション、メール、写真などが整理されることなく、保存され続けている状態です。物質的には問題にされにくいですが、現代生活に不可欠なコンピューターの動きに時間を要したり、空きスペースがどんどん小さくなったりすることに伴う不便さはあるでしょう」

「ためこみ症」と認めない家族も

Q.「ためこみ症」には、どのような治療法がありますか。

五十嵐さん「抗うつ剤が使われる場合もありますが、主に、モノに対する考え方や信念を、生活を送りやすいように適応させたり、新しい行動を学んだりしていく『認知行動療法』が使われます。

モノの入手、整理・保存、処分のそれぞれに対して考え方や行動を変えていき、モノを手に入れなかったり、特定のアイテムを手元に置いたりしなくても、不安にかられることは起きないと実際に体験してもらいます。これまでとは異なる新しい行動をルーティン化していきます。これには協力者の存在が重要です」

Q.家族に「ためこみ症」の人がいる場合、どのように接すればよいですか。

五十嵐さん「まず、『ためこみ症』がどのような病気であるかを家族が理解することが大切です。本人は病気であることを自覚していない場合が多く、家族とぶつかってしまいます。無理解が原因で強く当たってしまうと悪循環に陥りやすくなります。決して容易なことではありませんが、本人なりの理由から所有物を蓄積しているので、それを理解することが重要です。

一緒に暮らしている家族のスペースもモノでいっぱいになり、使えない状態なので口論になりやすいでしょう。しかし、特定の期間内、たとえば1週間後までに片付けてくれるように依頼し、それまでに使える状態になっていない場合は処分することを冷静に伝えることも一つの方法です。ただし、その方法は専門家のサポートを受けて行った方が効果的でしょう。

絶対にやってはいけないことの一つに、本人の不在中に片づけたり、処分したりしてしまう、ということがあります。本人の了解を得ずに行うと、だまされたと思い、さらに関係性がこじれます。モノを処分する場合は、本人の了解を必ず得なければなりません」

Q.家族が周囲に助けを求めることはできないのですか。

五十嵐さん「SOSを外部に出す家族もいますが、どれだけ大変な状態になっていても、病気、つまり『ためこみ症』だと認めずに、助けを求めない人もいます。隣近所の目などを気にするからかもしれません。しかし、『ためこみ症』の人との同居は安全で衛生的な環境ではありません。火事になる可能性や転倒の恐れ、モノが腐って異臭を放つなど健康にも悪影響を及ぼすからです。

市区町村によっては、こうした事態への対策条例があり、対応窓口があります。例えば、東京都足立区には『生活環境保全課ごみ屋敷対策係』があります。保健衛生局が窓口になっていたり、高齢者であれば地域包括支援センターも相談先になったりするでしょう。精神科医に相談することも一つの方法です」

Q.「ためこみ症」の人がいる家族に、周囲はどのように対応すべきでしょうか。

五十嵐さん「ためこんだものは、私有財産です。そして、モノが道路にはみ出たり庭に氾濫したりしないと周囲からは分かりません。家の外にモノがあふれると、その地区の町内会長などが撤去するよう説得することがありますが、本人は全く取りあわず、敵対関係になりがちです。『何も迷惑をかけていない』と思っていることが少なくなく、対応がとても難しいのです。また、私有財産なので、所有者の了解を得ないと入り込めないという大きなジレンマがあります。行政代執行を行える条例を作らないと、簡単には手を出せないのです。

家族が同居していて、自宅の外からは分からない状態であれば、この状態を自宅外に出すことに家族も強い抵抗感を抱いているかもしれません。あるいは、相談をしたいがどこにしていいのか分からないかもしれません。ごみ屋敷については、足立区のように対策条例を制定する自治体が徐々に増えているので、地元の自治体に相談してみるのも一つの方法です」

(オトナンサー編集部)

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