結婚や妊娠を控えた女性を対象にした婦人科検診を「ブライダルチェック」といいます。簡単な健康診断や子宮・卵巣の確認、性感染症の検査などを行い、妊娠や出産に影響を与える疾患の有無を調べるものです。
国立社会保障・人口問題研究所が実施した「第15回出生動向調査(2015年)」によると、妻の年齢が50歳未満の夫婦のうち、不妊を心配したことがある(または現在心配している)夫婦の割合は全体の35.0%(前回31.1%)で、増加傾向にあります。また、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は、18.2%(同16.4%)に上りました。これらから「不妊に悩んだことのある夫婦は3組に1組を超える」とも言われます。
不妊検査はまず女性が受ける風潮が強いですが、男性側に原因があるケースも少なくありません。ライフスタイルの変化や晩婚化が進み、不妊に悩む夫婦が増える中、男性にも自身の精子の状態を詳しく知ることができるブライダルチェック(妊娠力検査)を推奨する声が高まっています。
オトナンサー編集部では、男性のブライダルチェックについて、医師の内田玄祥さんに聞きました。
不妊症の約半数が男性側に原因
Q.不妊症のうち、男性側に原因がある割合はどれくらいですか。
内田さん「不妊の約半数は男性が原因とされています。男性の性機能や精子の状態も加齢とともに劣化するため、晩婚化が進行している現在では、男性不妊も増加しています」
Q.男性不妊にはどのような症状がありますか。
内田さん「男性の不妊は、勃起障害、射精障害などのイメージしやすいものから、精液の通り道の閉塞(へいそく)、精子が作られない、クラインフェルター症候群などの染色体異常といったものがあります。原因が特定できないケースも少なくありません。精子が作られない原因は、生まれつき精巣機能障害があるケースや、抗がん剤治療など後天的なものもあります。
余談ですが、三毛猫のオスはすべてクラインフェルター症候群で、数が少なく不妊なので、高値で取引されます。
勃起障害や射精障害は分かりやすいですが、精子の濃度や数がやや少ないようなケースは自覚症状がほとんどありません。将来子どもを持つ希望がある方、自然妊娠に至らない方は、まず検査を受けてみることをお勧めします」
Q.男性のブライダルチェックとはどのようなものでしょうか。
内田さん「最もポピュラーなのは精液検査です。費用は病院によって異なりますが、3000~5000円程度が一般的です。男性ホルモンや、精巣に精子を作るよう指示を与えるホルモン(FSH)を測る検査もあります。こちらの費用は項目にもよりますが、3000~1万円ほどです。ただし、精子の濃度や数、精子の通り道がふさがっているかどうかは、精液検査を受けなければ分かりません」
検査を受けた方がよい男性は?
Q.特にブライダルチェックを受けた方がよい男性はいますか。
内田さん「次のような方は、特に不妊の可能性が高いため、検査をお勧めします。生殖能力は年齢や健康状態によって変化しますので、過去にパートナーを妊娠させたことがあるからといって無関心にならないことです。なお、痛風や精神疾患の薬の中には、射精や精子、赤ちゃんに悪影響を及ぼすものがあるので、妊娠を望む場合は、服用に関して医師に相談してください」
【見た目で精液の量が少ない・薄い】
精巣機能に何らかの障害がある可能性があります。
【40歳以上】
若い頃に比べ、精子の濃度・数などが劣化します。
【ストレスがある・不眠・ヘビースモーカー】
これらは精子の運動性に確実に悪影響を及ぼします。
【勃起障害がある】
勃起不全(ED)の原因は、心因性や生活習慣病などさまざまです。精巣機能障害による男性ホルモン欠乏により、勃起障害が起きることもあります。
【性行動が活発である】
感染症により精路閉塞などが起こるリスクが高まります。
【糖尿病】
逆行性射精のリスクが高まります。
【抗がん剤治療を受けたことがある】
抗がん剤は細胞分裂の盛んな細胞を攻撃するため、精子のもとになる細胞も破壊し、無精子症となる可能性が高まります。
Q.男性がブライダルチェックを受ける際、どのような病院を選ぶとよいのでしょうか。
内田さん「泌尿器科か不妊治療を行っている医療機関を受診してください。胚培養士や精液検査専門の臨床検査技師など、精液検査を多数こなしている常勤職員がいる病院を選ぶのがポイントです。精液は射精後数時間ですぐ劣化します。専門スタッフがいない医療機関は外注検査となり、検査まで時間がかかるため結果に信頼性がありません。
なお、精液検査の場合は、精液量、精子濃度、精子運動率、精子奇形率を全て計測し、検査結果としてきちんと提示してくれるかを事前に確認しておくことも重要です」
Q.男性不妊が見つかった場合の治療法について教えてください。
内田さん「勃起障害の場合、レビトラやバイアグラといった薬で対応します。射精障害や精子の濃度・数がやや少ない場合、マスターベーションで射精できる人は多いので、その精子を使い、人工授精を行います(精子を濃縮・洗浄して排卵時期に子宮内に注入する)。症状がそれより重度の場合は体外受精、顕微授精に進むことになります。精路閉塞や造精障害の場合は手術を行います。
男女ともに年齢が上がると妊娠率は下がるため、早めの検査や治療が望ましいと言えるでしょう」
(ライフスタイルチーム)
内田玄祥(うちだ・げんしょう)
医療法人幸のめばえ、静岡レディースクリニック、三島レディースクリニック理事長
国立病院東京災害医療センター・国立病院東京医療センターにて産婦人科等に勤務の後、旧厚生省入省。医政局、健康局、社会・援護局等で病院経営管理、救急医療政策、障害保健福祉、医療安全等の政策立案を担当した後、山梨県健康増進課長として地域の感染症対策、がん・生活習慣病対策や母子保健政策・不妊症対策の充実にも従事する。夫婦で不妊症治療を経験したことから、官僚としてではなく医師として現場で不妊医療に寄与していくことが重要と考え、厚生労働省近畿厚生局医事課長の後、国立循環器病センター等を経て現職。