年収480万円の夫と離婚した34歳主婦、養育費は「定額」「変額」のどちらにすべきか(上)

投稿日:2019-05-20 更新日:

離婚の際に問題となる「養育費」。今回は、年収480万円の夫と離婚した女性のケースを例に、「定額」と「変額」のどちらがよいのか、筆者が解説します。

養育費は定額と変額、どちらがよい?

ほとんどの夫婦は「子どものために」離婚を思いとどまるのですが、残念ながら「子はかすがい」ではない夫婦もいるようで…息子、娘のことなんてそっちのけ。一目散に離婚届をもらって証人欄に両親の署名をもらい、夫、妻の欄に記入し、そして、親権者の欄の「母親」にチェックを入れ、さっさと役所へ提出する夫婦がいるのも事実です。

養育費は「最後まで一緒」が理想的だが…

「夫婦から友達に戻ろう」

そんな甘ちょろい戯れ言を言うようなロマンティストは、そもそも離婚しないでしょう。金輪際、縁を切りたいから、そして「いない方がよい存在」だから、迷わずに離婚するのです。離婚前から、顔も見たくない、声も聞きたくない、連絡も取りたくないのだから、離婚後は尚更です。そのため、お互いに一切接点を持たないように「子どもの養育費は最初から最後まで一緒」が理想的です。

しかし、再婚や養子縁組、転職や失業、高校や大学受験、予備校の講習など、離婚時に予見できない事情が起こりうるのも事実です。養育費の金額や期間をどのように工夫すれば「二度と会わない」と決めた相手と会わずに済むのでしょうか。

今回は、養育費の月額を「定額」にする場合と「変額」にする場合の功罪について掘り下げましょう。定額とは「全期間、同じ金額にする」、変額とは「段階的に増額する」という意味です。

<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:山中健介(36歳)→会社員(年収480万円)
妻:山中順子(34歳)→専業主婦 ※今回の相談者
長女:山中優奈(4歳)→山中夫婦の娘

今回の相談者は山中順子さん。すでに順子さんが娘さんの親権を持ち、離婚後は一緒に暮らすことは決まっていましたが、残るは養育費です。順子さんはパートタイマーで年収60万円、母子家庭の生活費は141万円、娘さんの進路は大学まですべて国公立という条件で離婚後のキャッシュフロー表を作成してみました。夫の年収(480万円)を考えた場合、養育費は定額と変額、どちらが適しているのでしょうか。

山中夫婦のキャッシュフロー表

山中夫婦のキャッシュフロー表

【山中夫婦のキャッシュフロー表】
1.離婚後の生活
妻が4歳の子どもの親権を持ち、引き取って育てていく。妻はパートタイマーで年収60万円

2.母子家庭の生活費
子1人の場合は年141万円(平成18年の全国母子世帯等調査結果報告・厚生労働省)

3.子どもの進路
小学校、中学校、高校は公立、大学は国公立文系(教育費の金額は八十二銀行調べ)

「定額」は事情変更の影響受けにくい

変額はキャッシュフロー表の「養育費」の欄の数字(年額)で離婚1年目は51万円です。定額は「数値の分析」の数字で全期間、毎月7万2000円(年間約86万円)です。

まず、定額のメリットとして、「事情変更」の影響を受けにくいことが挙げられます。事情変更とは、例えば、双方の再婚、収入の増減、失業、病気、親の介護などですが、離婚時に予見できない事情が数年後、数十年後に発生することは、ある程度避けようがありません。

しかし、離婚する時にせっかく苦労して決めた養育費なのに、最後までもらう前に事情変更のせいで金額を減らされたり、期間を短縮させられたりするというリスクが伴うのは、「もらう側」からしたら不条理でしょう。

順子さんは「私が再婚して(再婚相手と子が)養子縁組したらどうなるのでしょうか」と尋ねてきたのですが、実際のところ、再婚や養子縁組の事実を伝えると元夫が怒り出し、「もう養育費を払わない」と言い張る…そんなケースは珍しくありません。「仮に元夫の言いなりになり、養育費を諦めた場合、どうなるのかを考えてみましょう」。私は順子さんに前置きした上で話を続けました。

キャッシュフロー表をご覧ください。もしも、平成41年に妻が再婚し、平成42年以降、養育費をもらえなくなったとしたら、変額の場合、すでに妻が受け取った養育費は合計で680万円に過ぎません。本当は全期間で合計1645万円もらえるはずだったので、965万円も損をする計算です。

一方、定額の場合はどうでしょうか。すでに約1036万円(月7万2000円×12カ月×12年)ももらっているので、確かに609万円は損しますが、平成41年の時点で、変額の場合に比べて356万円も多く受け取っています。これは、定額の場合、変額よりも事情変更による損失を356万円も軽減できたと言い換えられるでしょう。私は「再婚する可能性がゼロではないのなら、養育費は『定額』の方がいいのでは」とアドバイスしました。

「そんなに払えない」と言われるリスク

次に、私は「娘さんが先々、どのような進路を歩むのか、考えたことはありますか」と尋ねたのですが、順子さんは「うーん」という感じで何も答えられませんでした。それもそのはず。娘さんはまだ4歳なので、当然、将来的な行く末は不確かなのです。それでも、大学全入時代なのだから、私は「『大学に進学するだろう』という前提で養育費を計算してはどうでしょうか」と促しました。大学進学を見込み、養育費の金額を「定額」で設定した場合、どうなるでしょうか。

大学費用を全期間で割り振っているので離婚1年目の養育費に早くも大学の学費が含まれています。具体的には、1年目の養育費は定額の場合、年86万4000円(月7万2000円×12カ月)ですが、変額の場合、51万円なので、その差額である35万4000円が大学などの学費です。一方、変額の場合、娘さんが大学に入学する平成45年に、養育費はいきなり2倍に跳ね上がります(87万円→176万円)。

「離婚時に決めた条件とはいえ、平成45年の時点で、旦那さんが『そんなに払えない』と泣きついてくる可能性はあります」

私はそんなふうにくぎを刺したのですが、離婚時と比べて夫の年収が増えたり、夫の両親が援助してくれたり、前もって夫がお金を貯めたりしていれば問題ありません。しかし、順子さんいわく夫は決して計画的な人間ではなく、長期的なスパンで物事を考えることができる聡明なタイプではないようで…私の心配が現実化する可能性が高そうです。

このように、定額は変額より早め早めに大学資金を受け取ることで、より確実に備えることができるのはメリットです。そのことを踏まえた上で順子さんは変額ではなく定額を望んでいたのですが…。

※「下」に続く

(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
露木行政書士事務所代表

1980年12月24日生まれ。いわゆる松坂世代。国学院大学法学部卒。行政書士・ファイナンシャルプランナー(FP)。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化し行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界最大規模に成長させる。他で断られた「相談難民」を積極的に引き受けている。自己破産した相手から慰謝料を回収する、行方不明になった相手に手切れ金を支払わせるなど、数々の難題に取り組み、「不可能を可能」にしてきた。朝日新聞、日本経済新聞、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインで連載を担当。星海社の新人賞(特別賞)を受賞するなど執筆力も高く評価されている。また「情報格差の解消」に熱心で、積極的にメディアに登場。心理学、交渉術、法律に関する著書を数多く出版し「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷、いずれもメタモル出版)「婚活貧乏」(中央公論新社、1万2000部)「みんなの不倫」(宝島社、1万部)など根強い人気がある。仕事では全国を飛び回るなど多忙を極めるが、私生活では30年以上にわたり「田舎暮らし」(神奈川県大磯町)を自ら実践し「ロハス」「地産地消」「食育」の普及に努めている。公式ブログ(https://ameblo.jp/yukihiko55/)。

 

▼家事が楽になる「魔法の家事ノート」アプリはこちら▼
魔法の家事ノート

-家事ノート

関連記事

モラハラ夫に耐え続けた56歳女性、金の切れ目で決断した「コロナ離婚」の始終【#コロナとどう暮らす】

緊急事態宣言解除後も、日常生活にさまざまな影響を及ぼし続ける新型コロナウイルス。それは、夫婦のあり方についても例外ではありません。3つのケースをご紹介します。   コロナをきっかけに、離婚に …

甘酒効果

「標準体型の人は『空腹』を、太った人は『食欲』を満たすために食べる」投稿が話題に、専門家に聞く

「標準体型の人は空腹を、太っている人は食欲を満たすために食べる」との投稿がSNS上で話題になっています。人が「食べる理由」は体型によって異なるのでしょうか。専門家に取材してみました。   「 …

パトカーの塗装なぜ白黒? ポイントは「下側が黒」 当初は白色の塗装も

全国の警察で使用されているパトカーの塗装は白黒のツートンですが、どのような経緯でこの色になったのでしょうか。その起源は、戦後すぐの時期までさかのぼります。 戦後期の警察の実情から、白黒塗装が誕生 警察 …

タマネギでもう泣かない! そのコツを料理のプロに聞いてみた

カレーライスに野菜炒め、サラダと、毎日の食卓に欠かせないタマネギ。しかし、実際に口に運ぶまでの不都合として、切る時の“涙”を挙げる人も多いのではないでしょうか。そこで、泣かないためのコツを聞いてみまし …

100均の“あの商品”で洋服の毛玉が簡単に取れると話題に「いいこと聞いた」、実際には?

冬の必需品であるセーターやニットの毛玉を簡単に取れる裏ワザが話題に。身近な“あるもの”を使ったその裏ワザについて「すごい!気持ちよさそう!」「いいこと聞いた」と歓喜の声が上がっています。   …