2010年12月に出版された「稼ぐ人はなぜ、長財布を使うのか?」(亀田潤一郎/サンマーク出版)がヒットして以降、世の中に「長財布伝説」が定着しつつあります。しかし、筆者は、財布を長財布にすることで「お金持ちになった人」や「成功した人」を知りません。
高ステータスと財布の因果関係
筆者は立場上、政治家や経営者などとお付き合いしています。まず、高ステータスな人は一目見てブランドがわかるようなスーツは着ません。基本はシングルスーツでオーソドックス。高すぎず仕立ての良い生地のスーツをチョイスします。
シャツも白が基調で柄物は着用しません。ネクタイもシンプルで、靴はストレートチップが基本です。ストレートチップは、ビジネスから冠婚葬祭まで用途が幅広く無難です。こちらも仕立ての良い、丁寧に手入れが行き届いたものをチョイスします。差がつくのは小物類です。財布は小物類に含まれます。
政治家は、スーツの胸ポケットにしまえる長財布(札入れ)を使用している人が多いと思います。経営者は二つ折りが多いと思います。レシートやカードで財布がパンパンになっている人を見たことはありませんが、これは物や情報の整理が上手というだけの話です。財布の形と今の身分との「相関関係」はありません。
筆者の個人的な感覚では、政治家や経営者の長財布の比率は6~7割程度です。「高ステータス=長財布」の方程式が当てはまるとは考えられません。あえて傾向を上げるならば、形が崩れることを嫌ってか、財布の小銭スペースに御守りや家族の写真などを入れたり、小銭入れを別に持ち歩いたりする人が多いということくらいです。
さらに、ブランドがわかるような財布を使っている人も少数派です。財布を見せびらかすような人は少ないと思います。きちんと財布の中を整理して、自分の持っている財産の情報を確認しておくことに意味はあるでしょう。財布は、個人の財務情報を把握する道具です。所持している金額くらいは把握しておきたいものです。
高ステータスな人は、高級品の長財布にしたことでその地位に辿り着いたわけではありません。ステータスに応じた財布を持つようになったと考えるべきでしょう。大切なのは、人としての中身です。そう考えると“財布の擬人化”はやはり不可解です。
財布がステータスを決めるのではない
高ステータスの人は、稼ぐことの大変さを知っています。お金のありがたみも知っている上に怖さも知っています。だから、真のお金持ちほど質素な人が多いように感じます。私たちは、目立ちたがり屋のお金持ちに注目しがちですが、普段目にすることができない本物のお金持ちの存在に気付くべきでしょう。
結局、財布は使いやすい形で、分相応であることが望ましいといえます。逆に、安いスーツや靴を身に着けながら、財布だけ「高級品」という方がいたら、きわめて滑稽(こっけい)です。まずは財布の購入で無駄遣いしないことを心掛けましょう。
なお「長財布伝説」は、米国では全く当てはまりません。筆者の知人であるトレーダーの年収は、日本円に換算すると5000万円ほどですが、トレーダーの中では平均的だといいます。カード決済が主なので普段は100ドル程度しか持ち歩いていません。また、コインはジャケットのポケットに無造作に放り込んでいます。
一時期ブームになった、マネークリップ派も多くはありません。職業の種別にかかわらず、財布をパンツのポケットにしまう人が多いと思います。読者の皆様も、海外渡航の際には各国の財布事情をチェックしてみてください。意外な発見があるかもしれません。
(コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員 尾藤克之)
ライター:尾藤克之(びとう・かつゆき)
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
東京都出身。代議士秘書、大手コンサルティングファームにて、経営・事業開発支援、組織人事問題に関する業務に従事、IT系上場企業などの役員を経て現職。現在は障害者支援団体のアスカ王国(橋本久美子会長/橋本龍太郎首相夫人)をライフワークとしている。NHKや民放各社のテレビ出演や、経済誌などからの取材・掲載多数。著書はビジネス書を中心に11冊。2018年1月「あなたの文章が劇的に変わる5つの方法」(三笠書房)は即重版、同10月「即効! 成果が上がる 文章の技術」(明日香出版社)は発売1週間で重版。埼玉大学大学院経済学研究博士課程前期(経済学修士、経営学修士)。
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