「結婚したらすぐに子どもが欲しい」。そう考える夫婦は少なくないと思いますが、実際に子宝に恵まれるとは限りません。現代は、35歳以上での初産を指す「高齢出産」や、不妊治療を行う夫婦が増加傾向にありますが、そうした背景から「ちゃんと妊娠できるのかな」「妊娠しづらい体質だったらどうしよう」と不安になったり、「妊娠しやすい体質って、つまりどういう体質なの?」と疑問に思ったりする女性も多いようです。
妊娠の「しやすさ」「しづらさ」とは何で、どのような原因が考えられるのでしょうか。産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。
“体質”と“病気”のラインは曖昧
Q.まず「妊娠」について教えてください。
尾西さん「妊娠するためには、(1)きちんと排卵できていること(2)排卵した卵子が卵管を通って子宮までたどり着けること(3)卵管で精子に出合って受精できること(4)受精卵が着床できる(子宮にもぐり込める)ことが必要です」
Q.「妊娠しやすい体質」「妊娠しづらい体質」は、実際に存在するのでしょうか。
尾西さん「現代の医学では、どこまでが“体質”で、どこからを“病気”とするかのラインがきちんと定まっておらず、はっきりとした原因が分からない場合を『体質』としてしまっていることも多いため、妊娠のしやすさを『体質』で分けるのはとても難しいことです。
いわゆる『妊娠しやすい体質』は、きちんと毎月排卵をしており、排卵や着床がスムーズにできる体質のことを指します。一方『妊娠しづらい体質』は、排卵周期がバラバラであることや、卵管通過や着床がしにくいといった状態を指しますが、体質というよりは、何かしらの病気やホルモンの異常が原因となっているケースが多く見られます」
Q.「妊娠しづらい」状態になる原因を詳しく教えてください。
尾西さん「先天的・後天的ともに原因は多岐にわたります。例えば、卵巣の皮が厚くて排卵しにくい『多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣』や、甲状腺ホルモン・女性ホルモンの異常、ストレスなどは『排卵しにくい状態』の原因となります。
クラミジアなどの性感染症や子宮内膜症といった病気も原因になります。これらの病気によって、おなかの中で臓器同士がくっついて自由に動けなくなる『癒着』を起こすと、卵管がふさがってしまいます。
子宮内の内膜ポリープや、おできのようなものができる『粘膜下筋腫』は、子宮への着床を邪魔してしまいます。子宮内膜が薄い状態のため着床できない『黄体(おうたい)機能不全』のケースもあります。また、パートナーとの相性もあり、相手の精子の動きを止めてしまう抗精子抗体を持っていて、それが原因となる場合もあります」
Q.妊娠しやすい体質の人が、何らかの原因によって妊娠しづらくなることもあるのでしょうか。
尾西さん「あります。先ほど述べた、性感染症や子宮内膜症といった病気になる場合のほか、不規則な生活が原因でホルモンバランスが乱れ、排卵周期に影響を及ぼすことがあります。痩せ過ぎや太り過ぎも排卵に影響します。
引っ越し、転職といったライフイベントや海外旅行などの後も、自分で気付かないうちに体にストレスがかかり、『子孫を残す前にまずは自分の体を守ろう』と排卵をストップすることがあります。このようなケースでは、一時的な排卵障害が起き、妊娠しにくい状態となりますが、体がそうした状況に慣れれば元に戻ります。また、喫煙は卵子の質を落として老化を早めるので、妊娠しにくくなる原因となってしまいます」
Q.「妊娠しづらい体質」と「不妊症」は異なるものですか。
尾西さん「不妊症は『妊娠を望む健康な男女が、避妊をしないで性交しているにもかかわらず、一定期間(一般的には1年)妊娠しないもの』という定義があるため、『妊娠しづらい体質』とは異なります」
Q.妊娠しづらい体質を、妊娠しやすい体質に変えることは可能ですか。
尾西さん「まずはBMI(体格指数)18~25の適正体重にすること、『3食きちんと食べ、夜間は睡眠をとる』といった規則正しい生活を行うこと、体を冷やさずに血行をよくすることなどが大切です。甲状腺ホルモンや『プロラクチン』というホルモンに異常があったり、ホルモンバランスが悪く排卵しにくかったりする場合は、治療や排卵誘発剤の使用で妊娠しやすい状態にできます。
子宮内にポリープや筋腫がある場合は、切除することでスムーズに妊娠できることもあります。また、胃薬や抗うつ剤も、種類によっては排卵を邪魔するものがあるので、現在飲んでいる薬も見直してみましょう」
Q.子どもを望む女性の中には「妊娠しづらい体質だったらどうしよう」など、自分の体質について不安があるものの、どうすればよいのか分からず悩む人も多いようです。
尾西さん「まずは自分の体について知ることが第一です。きちんと排卵しているか、着床に必要なホルモンがしっかり出ているかは、基礎体温を測るとある程度分かります。また、おなかの中の癒着の原因となる性感染症や、子宮内膜ポリープ・子宮筋腫・子宮内膜症といった妊娠しづらくなる病気、ホルモン異常などの有無は婦人科で調べましょう。特に不妊症というわけではなくても、病気のチェックだけでも大歓迎です。気軽に受診してくださいね」
(オトナンサー編集部)
尾西芳子(おにし・よしこ)
産婦人科医(日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員)
2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は高輪台レディースクリニック副医院長。「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性のすべての悩みに答えられるかかりつけ医を目指している。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。