動悸や発汗に注意! 「低血糖」の症状・原因・対処法とは

投稿日:2020-06-22 更新日:

血糖値の低下により、動悸やふるえなどの症状が出る「低血糖」。ひどい場合は、意識を失い、命の危険すらあります。そんな時、必要となるのが甘いもの。お菓子やジュースで人命を救えることがあるかもしれません。

(低血糖の原因や症状、対処法とは?)

「どなたか甘い飲み物やお菓子を持っている人はいませんか」。突然人が倒れた現場で、このような呼び掛けを耳にしたという体験談が先日、ネット上などで話題になりました。緊急事態におけるこの呼び掛けの意味を理解できない人が多い中、「低血糖」による急病患者だと察知した人が、ジュースを提供して救助したケースもあったようです。「低血糖症状を知らないと、とっさに対処するのは難しい」「この症状出るからアメを持ち歩いている」「もっと広く知られてほしい」など、さまざまな声が寄せられています。

「低血糖」とはどのような症状で、自分や周囲の人が低血糖になった場合は、どのように対処すべきでしょうか。医師の市原由美江さんに聞きました。

健康な人が発症することも

Q.まず、低血糖とは何でしょうか。

市原さん「健康な人の血糖値は70~140mg/dlで調整されています。低血糖とは、血糖値が70mg/dl以下となり、動悸(どうき)や発汗、脱力、ふるえ、空腹感などの症状が現れる状態です。血糖値が50mg/dlを下回ると意識レベルの低下やけいれんが起きる可能性があります。通常、中枢神経はエネルギーを100%ブドウ糖に依存しているため、ブドウ糖が不足すると(血糖値が低下すると)こうしたさまざまな反応が見られます」

Q.低血糖が起きる原因を教えてください。

市原さん「多いのは糖尿病の患者さんで、インスリン注射をしている人や、血糖降下薬を内服している人です。食事量が少なかったり運動量が多かったりすると、薬の効果が過剰に出て血糖値が下がってしまいます。

以下のような場合、糖尿病でなくても、低血糖になります。

(1)長時間空腹で過ごした場合
(2)2型糖尿病の初期や境界型の人で、血糖値の急激な上昇に反応してインスリンを過剰に分泌する場合(反応性低血糖)
(3)インスリノーマというインスリンを過剰に分泌する腫瘍ができた場合
(4)手術で胃を切除している人。食事内容が急激に腸に流れ込むことによってインスリンが過剰に分泌され、低血糖になる(ダンピング症候群)」

Q.低血糖になりやすいのはどんな人ですか。誰でも発症しうる症状なのでしょうか。

市原さん「低血糖になりやすい人は、前述のようにインスリン注射や血糖降下薬を内服している人、2型糖尿病の初期または境界型の人、胃切除後の人です。長時間、ご飯を食べずに空腹だった場合や、過度な運動をした場合などに血糖値が下がりやすくなりますが、通常は血糖値を上げるホルモンが分泌されて低血糖が起きないように調整されています。しかし、健康な人でもこの調節が一部うまくいかず、低血糖を起こすことがあります」

Q.低血糖によって意識を失うこともあるのでしょうか。

市原さん「意識を失うほどの低血糖(低血糖性昏睡)はインスリン注射をしている人に多いです。インスリンの量や効き具合によって個人差はありますが、急に意識を失って倒れる場合や、頭から血の気が引くような感覚やめまい感がが徐々に悪化して意識を失う場合などがあります。けいれんや興奮症状を伴うこともあります。命の危険もあるので急いで対応しないといけない状態です」

Q.低血糖による不調と、それ以外が原因の不調で違いや見分け方はありますか。

市原さん「インスリンや血糖降下薬を使っている場合、病院や薬局から低血糖の副作用が起きる可能性を説明されるので、ある程度判断できますが、そのほかの原因での低血糖は見分けることは難しいでしょう。前述の反応性低血糖やダンピング症候群は食後に起きることが多いので、参考になるかもしれません。

また、症状が出た時にブドウ糖(グルコース)やジュースなどの甘いものを摂取してください。固形や粉のブドウ糖が市販されていますので、それを摂取するのが望ましいですが、100%ではなくてもブドウ糖が含まれていれば効果はあります。摂取後10分程度で症状が改善してきたら低血糖の可能性が高いと言えます」

アメやジュースを口にして対処を

Q.自分や周囲の人に症状が出た際の適切な対処法を教えてください。

市原さん「自分が低血糖になってはいるものの意識がしっかりある場合、アメやジュースをすぐに口にすることで対処できます。周囲に低血糖症状の人がいた場合、意識があれば同じようにアメやジュースなどの甘いものを食べさせてください。

注意が必要なのは、意識レベルが低下している場合です。甘いものを食べさせようとしても、うまく飲み込めず誤えんを誘発することがあります。窒息や誤えん性肺炎の可能性もあるので絶対にやめましょう。まずはすぐに救急車を呼び、待っている間、可能であれば粉末状の砂糖やブドウ糖を口の内側に擦り付けてください。自然と吸収されて血糖値が上がりやすくなります」

Q.特に効果が高い飲食物や、逆にやってはいけない行為についても教えてください。

市原さん「糖には、ブドウ糖のほかに果糖やショ糖があります。甘いものであれば低血糖の時に有効です。中でも、ブドウ糖が一番早く体内に吸収されるため、ブドウ糖の割合が高いものの方が低血糖改善までの時間が早まります。そこで、低血糖対策で持ち歩くならブドウ糖がお勧めです。市販のジュースやお菓子にもブドウ糖が多く含まれ、低血糖改善効果があります。

ただし、血糖降下薬の中でも『αグルコシダーゼ阻害薬』を内服している場合、ブドウ糖以外の糖分では低血糖が改善しないので注意してください。また、低血糖だからといって過剰に糖分を摂取すると、かえって高血糖になります。ブドウ糖であれば10~15グラム、ジュースであれば100~150ミリリットル程度で十分効果はあるので、取り過ぎに注意しましょう」

Q.低血糖症状を予防する方法はありますか。

市原さん「インスリンや血糖降下薬を使っている人は、日ごろからなるべく同じリズムの生活を心掛けましょう。食事の時間が遅れたり、食事量が少なかったり、いつもより多く体を動かしたりした時、低血糖は起きやすくなります。食事が少なかったら追加で補食をしたり、運動するなら補食を摂取してからにするなど工夫しましょう。

反応性低血糖やダンピング症候群における低血糖は、大量の糖分が一気に腸から吸収されることで起きます。食べ過ぎず、1回の食事における糖質量を適量に抑えることが低血糖予防につながります」

(ライフスタイルチーム)


市原由美江(いちはら・ゆみえ)
医師(内科・糖尿病専門医)

横浜鶴ヶ峰病院付属予防医療クリニック副院長。自身が11歳の時に1型糖尿病(年間10万人に約2人が発症)を発症したことをきっかけに糖尿病専門医に。病気のことを周囲に理解してもらえず苦しんだ子ども時代の経験から、1型糖尿病の正しい理解の普及・啓発のために患者会や企業での講演活動を行っている。また、医師と患者両方の立場から患者の気持ちに寄り添い、「病気を個性として前向きに付き合ってほしい」との思いで日々診療している。糖尿病専門医として、患者としての経験から、ダイエットや食事療法、糖質管理などの食に関する知識が豊富。1児の母として子育てをしながら仕事や家事をパワフルにこなしている。オフィシャルブログ(https://ameblo.jp/yumie6822/)。

 

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