ストレートネックとは
肩こりや頭痛、腰痛、激しい気分の浮き沈み。これらは、もしかしたら「首」に由来する症状かもしれません。近年、パソコンやスマートフォンが普及したことで「ストレートネック」になっている人が多いといわれ、これを放置することが上記の症状につながるのです。しかし、医師の尾西芳子さんによると、ストレートネックは、姿勢など普段の生活を工夫することで予防したり、症状を和らげたりすることができます。
本来、人間の頸椎(首の骨)は少し前に反るような形状をしています。これを「生理的湾曲」といい、成長に伴って形作られるものです。しかし、日常生活における不良姿勢やスポーツ傷害、加齢などによってこの湾曲が消えることがあります。この、頸椎の緩やかなカーブが消失し、真っすぐになった状態がストレートネックです。ストレートネックは肩こりや頭痛、自律神経の乱れといった症状の原因になります。
ストレートネックになる原因
ストレートネックになる原因はさまざまですが、最近は日常生活における不良姿勢が最も高い割合を占めています。中でも多いのが、頭部を前に突き出したり、うつむいたりするような前かがみの姿勢。パソコンやスマートフォン使用時は、無意識にこの姿勢になりやすいのです。
パソコンを使用するデスクワークの増加やスマートフォンの普及によって、ストレートネックになる人が増えていますが、近年では子どもにも多くみられます。これはモバイル型ゲーム機の普及により、子どもたちが体を動かして遊んだり運動したりする時間が減ったことによるもの。骨格が作り上げられる幼少期にストレートネックになると治すのが困難なため、子どもの頃から対策が必要です。
ストレートネックのチェック方法
ストレートネックになっていないかを家族全員でチェックしてみましょう。
【壁を使ったチェック方法】
壁に背中をつけて真っすぐ立ちます。この時、かかとを壁につけるようにしてください。その状態で後頭部、肩甲骨、仙骨(せんこつ:脊椎の下部にある大きな三角形の骨)、かかとの4点が無理なく壁についていれば正常な姿勢と判断できます。しかし、4点を壁につける姿勢が苦しかったり、後頭部が壁につかなかったりする場合、すでにストレートネックになっているか、今後なる可能性が高いということです。
【壁がない場所でのチェック方法】
ストレートネックの原因で多いのが、頭部・あごが前に突き出た姿勢である「頭部前方変位」。これをチェックするにはまず、視線を前にし、両腕を自然に体側に垂らした「気をつけ」の姿勢になります。この時、耳たぶの位置が肩峰(けんぽう:鎖骨を辿っていき、肩口で終わる骨の端)の直線上にあると、頸椎に負担がかからない正常な姿勢です。しかし、肩峰よりも耳たぶが前に位置していれば頭部前方変位であり、すでにストレートネックになっているか、今後なる可能性が高いということです。
ストレートネックの予防・改善【ストレッチ編】
ストレートネックは、背中側の筋肉が弱くなっていると同時に、前側の筋肉が硬くなっている可能性があります。首の前の方から胸にかけてストレッチを行うことで予防・改善が期待できます。
【胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)ストレッチ】
胸鎖乳突筋は首の前面から横についており、首を動かすのに大きく関与する部分。横を向いた時に反対側の首に浮き出る筋肉です。胸鎖乳突筋のストレッチは、顔を真っすぐ前に向けた状態から、斜め後ろに頭ごと倒します。右後ろに倒した場合は、左側の胸鎖乳突筋が伸びます。硬くなっている人は、頭を後ろに倒しただけで突っ張り感を感じるはず。座ったまま簡単にできるストレッチなので、こまめに行いましょう。
【大胸筋ストレッチ】
大胸筋は胸についている大きな筋肉です。大胸筋が硬く収縮したままになると、肩や腕が前に出た猫背の姿勢が強くなります。大胸筋のストレッチは腰の後ろで手を組み、組んだ手を斜め下に引くように胸を張ります。余裕がある人は、優しく腰に手を近づけたり離したりする「バウンズ」を繰り返しましょう。
また、壁に手をつき、顔と体を壁から離すように反対側にひねると、壁についている手の方の胸が伸びるのを感じることができるはずです。この時、手をつく位置を低くしたり高くしたりすると、大胸筋を全体的にストレッチすることができます。慣れてきたら座ったままでもオーケー。パソコンやゲームだけでなく、家事など前かがみの姿勢が続いた時に行うと、ストレートネックだけでなく猫背の予防やバストアップにも効果的です。
ストレートネックの予防・改善【トレーニング編】
ストレートネックは、首から背中、腰にかけての筋肉が伸びきったまま固まっている状態です。つまり、首から腰にかけて背中側の筋肉が使えず、弱くなっています。むやみに「筋トレが良い」と胸や腹筋など前側の筋肉を鍛えてしまうと、背中側の筋肉がさらに使えなくなり、症状が悪化することも。ストレートネックの予防・改善には、背中側の筋力トレーニングが不可欠です。
【僧帽筋トレーニング】
僧帽筋は首から肩にかけての筋肉です。僧帽筋が硬くなると多くの人が肩こりを感じるようになります。僧帽筋を鍛えるには、思い切り肩をすくめるように肩を耳に近づけます。この時、肩が前に出ないように、トレーニングの最初から最後まで常に耳たぶと肩峰が直線上にあることが大切です。負荷をかけたい場合、手にダンベルやペットボトルなどを持って行うようにします。
【広背筋トレーニング】
広背筋は上腕骨から腰までつながっている背中の大きな筋肉です。広背筋が弱くなると、骨盤が後ろに傾き、猫背の姿勢になりやすくなります。
まず、タオルの両端を持ち、頭の上に持ってきます。タオルが床と水平になるように、まっすぐ横にピンと引っ張ります。そのまま、タオルが肩の下まで来るようにひじを曲げて下ろします。タオルは身体の後ろ側を通しますが、後頭部にタオルがつかないようにできる限り後ろで行います。タオルが肩の下まで来たら、頭の上までもう一度上げていきます。ポイントは「最初から最後までタオルをピンと張っておくこと」「視線は前を向くこと」「胸を張ること」の3点。
タオルの代わりにダンベルでも同様に行えます。最初は3回×3セット程度から始めましょう。8~10回×3セットできるようになったら、ダンベルを重くしたり、タオルを握る幅を狭くしたりして、負荷を高めます。
【菱形筋(りょうけいきん)トレーニング】
菱形筋は、肩甲骨を背中の中央に引き寄せる働きをする筋肉です。菱形筋が弱くなり、伸びたまま固まっていると、両方の肩甲骨が背骨から離れたままになり、猫背や肩が前に出たような姿勢になります。
菱形筋のトレーニングは、耳から離すように肩を下ろし、肩甲骨を背骨に近づけるように思い切り寄せます。難しい場合は、同時にひじを曲げて腕を後ろに引く動作を行うと、菱形筋が使いやすくなります。この時、頭部と首が前に出やすいため、あごを引いて行うようにしましょう。背骨から肩甲骨の内側までの距離が指4本分以上ある場合は、菱形筋が弱くなっている可能性があります。
ストレートネックの予防・改善【日常生活編】
ストレートネックは、普段から正しい姿勢を維持することで症状を和らげることができます。慣れるまでは、正しい姿勢を保つことはなかなか難しいものですが、習慣化してしまえば、最も楽で効果的な方法といえます。以下の項目を全て意識するのがベストですが、このうち一つを実践するだけでも効果が期待できます。
・あごを引く
・視線を真っすぐ前方に向ける
→パソコン使用時にいすの高さを変えたり、スマートフォンを持つ手を高い位置にしたりして、視線が下にならないように工夫します
・肩甲骨を寄せる
・胸を張る
普段の生活で意識と工夫を
「ストレートネックは、頸椎の本来の形状が変化することで首や肩に大きな負担がかかります。放っておくと肩こりや頭痛、腰痛だけでなく、自律神経失調症など重度の症状を引き起こす可能性も。しかし、姿勢を工夫したり、悪い姿勢が続いた後にストレッチや筋トレを行ったりすることで予防と症状の改善が可能です。普段の生活の中でも、ストレートネックにならないように意識や工夫をしましょう」(尾西さん)
(オトナンサー編集部)
ライター:尾西芳子(おにし・よしこ)
産婦人科医(日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員)
2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は高輪台レディースクリニック副医院長。「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性のすべての悩みに答えられるかかりつけ医を目指している。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。