
お母さんのひざの上は子どもの「安全基地」 photo by milatas/Fotolia
人間の脳は5歳までにほとんどできてしまう
「子どもには将来苦労させたくない!」と、多くのお父さんお母さんは、わが子が小さいうちから幼児教室に通わせたり、本をたくさん読ませたり、厳しくしつけたりします。
しかし、脳科学者の茂木健一郎さんが幼児の子育てについて書いた『5歳までにやっておきたい 本当にかしこい脳の育て方』によると、0歳児から5歳児にとって必要なのは、流行の幼児教育やしつけではありません。それよりも大事なのは、いろいろなものごとに興味を持ち、好きなことに熱中して最後までやり遂げられる「脳の土台」をつくること。
茂木さんはまた、人間の脳の基礎は5歳までにほとんど完成してしまうので、この時期のドキドキ、ワクワク体験がきわめて重要なのだとも指摘しています。
なぜなら、ドキドキ、ワクワク体験によって子どもの脳内に「ドーパミン」が分泌されやすくなるから。ドーパミンはうれしいこと、楽しいことを体験したときに分泌される神経伝達物質で、人間を意欲的にすると言われています。
アインシュタインやエジソン、スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツといった天才たちは、夢中になれるひとつのことを見つけ、その成功に向かって熱中し、やり遂げる力を持っています。
茂木さんによれば、彼ら天才たちの共通点は、幼少期から、興味を持ったものごとにわき目もふらず熱中してきたこと。そうした経験のおかげでドーパミンが出やすくなって、豊かな創造力と持続する集中力をあわせ持った「脳の土台」をつくることができたのです。
わが子を彼らのような天才に、とはなかなかいきませんが、これからの時代を生き抜く「脳の土台」をつくるために、親がしてあげられるのはどんなことなのでしょうか。茂木さんは「子どもの『やりたい』を決して邪魔しないのが親の務め」と同書で強調しています。その内容を少しだけ抜き出してみましょう。
子どもの「安全基地」になってあげよう
子どもは、親の膝に座り体に寄りかかって絵本を読んだり、おもちゃで遊んだりしたがります。これは、親に体を預けることで心を安定させる行動で、「安全基地」と呼ばれる子どもの愛着行動のひとつだそうです。
「安全基地」はアメリカの発達心理学者であるメアリー・エインスワースなどが提唱する概念で、子どもは親との関係によって育まれる「心の安全基地」の存在があってはじめて、外の知らない世界を探索できるというもの。
子どもにとって、心のよりどころは親そのものです。親という、困ったときにいつでも帰ることができる「安全基地」があるから、子どもは外の世界のいろいろなことに興味を持ち、夢中になれるんですね。
茂木さんによれば、認知科学の実験で乳幼児を観察するとき、お母さんの膝の上に乗って何かをしているときの子どもの脳がもっとも活発に働くそうです。いそがしい毎日ですが、できるだけ「基地」を提供してあげたいものです。
脳の成長のためには家は散らかってもいい?
本棚の本を全部出して積み木のように重ねたり、ティッシュペーパーを次々と引っ張り出したり。親からすると「もう散らかさないで!」と言いたくなる子どもの行動ですが、これらは、自分が置かれた環境を探索しようとする意味のある行動です。
「アフォーダンス」という言葉を聞いたことはありますか? これはアメリカの知覚心理学者、ジェームス・J・ギブソンによる造語で、与えられた環境のさまざまな要素から人間の新しい行動や感情が生まれる、物と人との関係性を意味しています。
赤ちゃんの行動で言えば、手に取ったものはなんでも口に入れるという行動もアフォーダンスの一種です。また、歩きはじめたばかりの子どもが椅子やテーブルによじ登ろうとするのも、椅子やテーブルの形や環境にアフォーダンスを感じているからです。
「引っ張り出せる」「口に入れられる」「よじ登れる」。子どもは置かれた環境でこれらの可能性を感じて、試しているんですね。これはまさしく、脳がぐんぐん発達している瞬間なのです。
子どもの危なっかしい行動にはいつもヒヤヒヤさせられます。でもそれが脳の発達に必要なことなら、「危ないからやめなさい!」「汚いからだめ!」と叱ることも我慢できそうです。ティッシュペーパーをひと箱全部まき散らかしても、「いま、この子の脳はすごく成長しているんだ」と考えればイライラしなくなる、かもしれません(?)。
子どもの「邪魔をしない」ことがなにより大事!
そうはいっても、危なっかしい子どもの行動を見ていると、反射的に「ダメ!」と言ってしまう親も多いはず。茂木さんはそれも理解したうえで、親の「ダメ!」について「子どもの可能性を見つける『宝探し』という観点においては、決しておすすめできません」と述べています。理由は、自立心が乏しくなったり、自発性に欠ける子どもになってしまったりする恐れがあるからです。
0~5歳は、子どもの「学びたい」という欲求の黄金期です。そして、「歩くことができた!」「絵本を読むことができた!」「ボールをうまく蹴ることができた!」などなど、たくさんの小さな成功体験が、子どもの脳をぐんぐん育てるのだそうです。
そんな黄金期になんでもかんでも「やっちゃダメ!」といわれると、なにに対しても興味が持てない子どもになってしまうかもしれません。0~5歳の「やる気」は意外に削がれやすいのです。
茂木さんは本書で、「子どもの邪魔は決してしないで!」と繰り返し強調しています。子どもの「やりたい」「学びたい」を止めることなく、できるだけ見守って観察する。そうすればわが子の可能性という「宝」を見つけることができる。
「それやっちゃダメ!」と言いそうになったとき、茂木さんのアドバイスを思い出してみてください。「これは宝かもしれない」と考えることができれば、後の掃除や片づけも楽しくできるに違いありません。
茂木さんは同書で、脳科学者ならではの「かしこい脳の育て方」を語っています。家でもできる「アクティブ・ラーニング」のやり方や子どもの才能を開花させるほめ方、脳がぐんぐん育つ遊ばせ方など、奮闘するお父さんお母さんへのヒントが満載です。子育てに正解はありませんが、参考にしてみていかがでしょうか。
引用書籍:本当にかしこい脳の育て方
やる気を高める脳内物質ドーパミンが出やすい脳を5歳までに完成させれば、自分の好きなことを見つけて熱中し、成功できる、本当にかしこい子が育ちます! 脳科学者・茂木健一郎が教えるドーパミン・サイクルをつくる学び方、遊び方、親がしてあげられること。
著者:茂木健一郎
価格:¥1,540(税込)
記事提供:日本実業出版社