凹まない練習。ダメなのは、「自分」ではなく「考え方」

投稿日:2020-06-07 更新日:

「こころのメガネ」のお話を始めます。

「もし、私の思い通りにならなかったらそれはとても残念なことではあるが、それで、『この世の終わり』というわけではない」
臨床心理学者 アルバート・エリス

米国で強い影響力をもつ臨床心理学者であり、世界三大心理療法家のひとり、アルバート・エリス。

彼が説く認知行動療法は、知らないうちに偏ってしまった「物事の考え方やとらえ方」を健全に戻すことで、不必要な悩みやイライラ、凹(へこ)み、不安から自由になることを目指す心理療法です。

『凹まない練習』(日本実業出版社:刊)では思考の枠組みを「心のメガネ」とたとえ、エリス博士の「今を100%生きるための教え」を、主人公であるリスのエーリスがやさしく解き明かしていきます。

ついイライラしてしまったり、クヨクヨ悩んでしまう人の心を晴れに変える物語です。

ここでは本書の内容の一部を、編集のうえ公開します。

「こころのメガネみがき屋」へようこそ。

とある街にある、ちょっと変わった名前のお店「こころのメガネみがき屋」。
そこは、悩める人の心から悩みを消す不思議なお店です。店主が語る「こころのメガネの話」にその秘密があるらしいのです。

店主であるリスのエーリスは、最近まで「靴磨き屋」として、毎日お客様の靴を磨いていました。

そこでお客さまから聞くいろいろな話のお返しに、イライラ、クヨクヨ、凹む……といった、長引く「嫌な感情」をお客さま自身で解決できるように「こころのメガネ」の話をするようになったのです。

すると、みんながたいへん興味深く聞いてくれ、気づけば「靴は磨かなくていいので、こころのメガネのお話を聞かせてください……」という人が、たくさんやって来るように。

こうして「こころのメガネみがき屋」が始まったのです。

今日もまた、ウワサで評判を聞いたお客さんが、「何か、変わるかも!」という期待とともに、ひとり、またひとりと、その扉の奥へと入って行くのでした――。

あなたも椅子におかけになって、エーリスの話を聞いていきませんか?

出来事と感情の間には「こころのメガネ」がある

じつはですね、何かしらの感情が生じる時には、みんな自分の「こころのメガネ」を使っているんです。

普通はいちいち意識していませんので、気づかないんですけどね。では、ちょっとここで「こころのメガネ」とはどんなものか、お話ししましょうかね。

「こころのメガネ」は一人ひとり違いまして、同じものはひとつとしてないんです。と言いますのも、一人ひとりはまっているレンズが違いましてね。そのレンズは一人ひとりが持っている、「その人なりの考え」からできているんです。

常識やルール、固定観念や価値観、信念や信条……、そういったものでしょうか。

では、感情が生じる時、そんな「こころのメガネ」をどのように使っているかと申しますと、出来事に対していろんな「情報処理」をする時に使っているんです。

何かしらの感情が生まれる時には、そのもとになっている出来事がありますが、その「出来事」から「感情」が生じるまでの間に、じつは「こころのメガネ」で情報処理をしているんです。

悩みを軽くする考え方、悩みをこじらせる考え方

お客さま。自分にとってよくない出来事や、嫌な出来事が起こった時、そのことがずっと頭から離れず、ひどく心を痛めてしまうことってありませんか。

「そんなこと一度もない」という方には、お目にかかったことがないんですがね。

自分にとって不快な出来事ですから、ネガティブな感情を抱いてしまうのは自然なことですし、むしろ、そんな感情になったからこそ成長できる、ということがありますからね。

ですが、その感情に長い間囚われて何も手につかなくなってしまうのは、とてもつらいですよね。

そんな時は「こころのメガネ」の情報処理で、「非理性的な考え方」をしてしまっているんです。

じつは不快な出来事が起こった時、それに対して2通りの考え方ができましてね。

ひとつは「理性的な考え方」、もうひとつは「非理性的な考え方」なんです。

「理性的な考え方」と言いますのは、筋が通っていて、現実的で、柔軟で、自分の幸せや目標達成に役に立つ考え方。
「非理性的な考え方」と言いますのは、筋が通っておらず、非現実的で、凝り固まっていて、自分の幸せや目標達成を妨げる考え方なんです。

「こころのメガネ」の情報処理でどちらの考え方をするかによって、大きな差が出るんです。「理性的な考え方」をすれば自分を助けることができますが、「非理性的な考え方」をすれば自分を苦しめることになってしまうんです。

「非理性的な考え方」は、自分を苦しめるだけ

じつはわたくし、非理性的な考え方をしてしまい、ひどく苦しんだ時期があったんです。それは、わたくしがまだ20代の、そう……靴磨きを始めて1年ほど経った頃でした。こんなお客さまがいらっしゃったんです。

「今から結婚式に出るので、靴をピカピカに磨いてほしいんですけど、1時間くらいでできますか」と。

1時間あれば可能でしたので、わたくし、お受けしたんです。靴ひもをほどき、クリーナーで汚れを落とし、クリームをつけ……、ここまでは、順調だったんですが、輝きをつける最後の工程で少し力んでしまい、ムラをつくってしまったんです。

結婚式の時間がせまっていましたので、はじめからやり直すこともできず……。そして、お客さまは、こうひと言残して、店を出られたんです。

「仕方ないですが、このまま結婚式に行きます。時間に余裕を持って来なかった僕も悪いですし……」

わたくし、お客さまに申し訳なくて。お客さまは、わたくしの失敗を許してくださったのですが、わたくし自身、そんな自分を許せませんで。
お客さまのご希望に応えることができなかったことに、ひどく凹んだんです。

こんな時、ネガティブな感情を抱いたとしても、すぐに気持ちを切り替えられる人もいますが、わたくしはできなかったんです。

そのお客さまの顔が、四六時中頭に浮かんできまして。自分を何度も責めました。そのうち、仕事で小さなミスが増え、それにまた凹む……、といった悪循環が生まれてしまったのです。

そしてしまいには、仕事が手につかなくなり……、しばらく店を休むことにしたんです。

その「考え方」は、本当に正しい?

お客さま。

わたくしがこんな風になってしまったのは、先ほど申しましたように「こころのメガネ」の情報処理で「非理性的な考え方」をしてしまったからなんです。

「お客さまの要望に応えられなかった」という出来事に対して、わたくし、こんな考え方をしたんです。

「あー、なんてことをしてしまったんだ……。お客さまの要望に応えられなかったなんて、靴磨き屋をする資格なんてない……」

これって「非理性的な考え方」なんです。文章にしてみると、よくわかるんですよ。「お客さまの要望に応えられなかった私は、靴磨き屋をする資格はない」

どうです、お客さま? お客さまの要望に応えられない人は、絶対に靴磨き屋をする資格はないのでしょうか。

「絶対にそうだ」とは言えませんよね。「お客さまの要望に応えられなかったら、靴磨き屋をしてはいけない」という決まりでもあるのでしょうか。

そんなものはないので、非現実的ですよね。お客さまの要望に応えられなかったことだけで「靴磨き屋をする資格はない」と決めつけてしまうのは、あまりにも凝り固まった考え方ですよね。

「お客さまの要望に応えられなかったから、私は靴磨き屋をする資格なんてない」

そんなことを自分に言い続けると、どうなるでしょうか。

凹んでばかりで「靴磨き屋として、たくさんのお客さまに喜んでもらおう」という本来の目標の妨げになっていますよね。こんな「非理性的な考え方」は、自分をひどく苦しめてしまうだけなんです。

もしこの時、わたくしが「理性的な考え方」をしていたらどうなっていたでしょう。事実を受け入れた上で、ちゃんと筋が通った、現実的で柔軟な、そして自分の幸せや目標達成に役立つ考え方ができていれば……。たとえば、こんな風に。

「お客さまには、悪いことをしてしまったなぁ……。でも、今回のことでこんなこともあるとわかったし、これからの課題も見つかった」。ネガティブな感情を抱いたとしても「次からは頑張ろう」と前を向けたでしょう。

わたくしにこのような「理性的な考え方」ができなかったのには、わけがあったんです。じつはわたくしの「こころのメガネ」のレンズに、重いゴミがあったからなんです―――。

新しく出てきたフレーズ「重いゴミ」。これが「こころのメガネ」にあることで、自分を苦しめることになるようです。さらに話は続きますが、それは本書で。

いつでも、エーリスは「こころのメガネみがき屋」でみなさまをお待ちしております。



引用書籍:凹まない練習
著者:かおり&ゆかり 著/原田進 監修

世界三大心理療法家のアルバート・エリスの感情心理学を物語とイラストで解説。感情心理学とは、偏った考え方を健全にすることで、不必要な悩みをなくす心理療法。本書では、思考の枠組みを「こころのメガネ」にたとえ、感情心理学をやさしく解き明かす。

記事提供:日本実業出版社

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