賃貸マンションやアパートの契約時に支払う「敷金」ですが、「どうして支払う必要があるのか」「返金されると聞いていたのに金額が少なかった」などと、あまり良い印象を持っていない人も多いかもしれません。
オトナンサー編集部では今回、敷金の目的や、返金される/されないケースなどについて弁護士の牧野和夫さんに聞きました。改めて、敷金のことを知っておきましょう。
滞納などに備える「担保金」
そもそも敷金は、賃貸借契約時に支払われるお金のことで、借り主が家賃を滞納した場合や、部屋を汚したり、壊したりした場合に備える一種の「担保金」です。敷金は、家賃滞納や修繕が発生しなければ原則、そのまま返金されます(無利息の約定が多い)。
ちなみに改正民法(成立後3年以内に施行予定)は敷金について、貸し主は、預かっている敷金から借り主の金銭債務の額(未払い賃料など)を控除した、残額を返金しなければならない、としています。つまり「賃貸借契約書に借り主の原状回復義務が規定されているため、貸し主が借り主の退去後に原状回復を行い、その費用を敷金から控除して返金することが原則できなくなります」(牧野さん)。
それでは、敷金が返金されないのは、どのようなケースでしょうか。
借り主には「原状回復義務」がありますが、これは、入居時と全く同じ状態に戻すという意味ではなく、通常の使用による経年変化や通常損耗(畳の日焼けなど)は貸し主が負担するのが原則です(国土交通省「現状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)。
つまり、経年変化や通常損耗以外に、借り主の故意(過失)による損傷があった場合は、敷金から修繕費用が控除されても仕方ありません。壁にクギやビスを打つ▽ペットが柱を引っかく▽照明器具を設置するために穴を開ける――などがこれに該当します。
なお、敷金は、民法改正前は請求可能時(退去日など)から10年以内、改正民法施行後は5年以内に請求しなければ、債権が時効によって消滅してしまいます。
ハウスクリーニング費用は「無効」?
では、経年劣化や通常損耗にもかかわらず、修理代を請求された場合は、どのように対応すべきなのでしょうか。
「通常の使用による経年変化や通常損耗は原則、貸し主が負担するものです。まずは国交省の『ガイドライン』を示して貸し主と交渉すべきでしょう。それでもうまく行かなければ、弁護士や司法書士に相談の上、対応を検討できます」
牧野さんによると、よく問題になる「ハウスクリーニング費用(借り主負担)」は原則、消費者契約法10条に違反して「無効」とされるケースが多いそうですが(退去時、普通に掃除して退去すれば負担義務はない)、これを「有効」とするものもあるため、専門家の助言の下、慎重に交渉すべきだそうです。
ちなみに、敷金は原則として返金されるものであり、貸し主が敷金から控除をしている場合は「当然明細を示すべきです。借り主は開示請求もできます」。
(オトナンサー編集部)
ライター:牧野和夫(まきの・かずお)
弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士
1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。